屋根裏部屋
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馬に踏まれる

3 骨接ぎ先生・3

 城門をくぐったときから辺りを物珍し気にきょろきょろと見回していた目が、一点に注がれた。妙な服にくるまった男は、陛下のお部屋に入るとそのままつかつかと歩き、朱雀将軍の正面に黙って屈み込んでしまった。
 なんてことだ!いきなり陛下に尻を向けているじゃないか!
 「おい、あの、先生!」
袋を置きながら呼ぶが、全く聞こえていないらしい。心配げに曇っていた陛下の眉間は、奇妙な老人の出現で明るくなっていた。医術者もコムル人も、いきなり現れた小男を、何事かと見つめている。
 「いいから、このまま診せろ。」
陛下のお言葉すら聞こえていないようだ。骨接ぎはふむふむと頷きながら顔を近づけ、今にも鼻先が触れそうな近くから、将軍の足を眺め回した。
 「動かさなければ痛みはないですな?この盛り上がっているところが折れているが」
言いながら爺さんは指先を山形に合わせて将軍に示した。
 「このようになっておるわけだ。だからこの山を抑えてまっすぐにしてつながなければならん。そうでなければこのままくっついてしまう。さらに、割けるように砕けた骨が横向きに離れているかもしれんから」
そこで両手で足を包むような仕草をしてみせた。
 「この向きからも締めておく。腫れが引けば、砕けた骨が遊んでおるか、もっとよくわかるようになるが、細いところだから、おおむねこのままで大丈夫。」
朱雀将軍は、感心したように頷いた。
 「すごいな。どうして見ただけでそこまでわかる?」
 「似たような足の骸を切り開いて中を見たからな。」
場が凍り付いた。
 それにしても、骨接ぎはまったく陛下には説明しない。先ほどからまっすぐに将軍と、いや将軍の足と向き合っているだけだ。さすがに気になってきて、ちらちらと陛下を見ると、腕を組んでただ微笑んでおられる。
 「おい、ジンシク。」
おいとは何だ。いつの間にか爺さんに名を呼び捨てにされている。
 「竹を五本出せ。火桶に入れた炭を手元に置け。裂いた布と、それから細く切った革だ。」
よどみなく指示が出る。それらを順に揃える間に、老人はにまりと将軍に笑いかけた。明日にも歩けますが、外へお出かけになりたいでしょうな?ぽかんとかぶりをふる将軍に、満足そうに頷くと、追加の指示が飛んできた。ジンシク、将軍の古靴から底を切り取ってもってこい。
 まったく人使いが荒い爺さんだ。いつの間にか助手にされて、こまごまと動き回らされている。
 骨接ぎは器用に竹を炙って曲げ、将軍の足にかざして確かめてはまた曲げる。そうして形の違う竹が五本、並べられた。さらにいろいろな竹の切れ端も取り出されている。細く裂いた布、革の紐、苦労して外した古靴の底。骨接ぎが手揉みしながら将軍に頭を下げた。
 「武勇名高い将軍と伺っております。骨を接ぐには一度だけ、手荒なことをせにゃあなりません。どうかご勘弁を。」
 ごくり、と将軍の喉が鳴った。
 「矢の傷から、矢じりを抜かれたことは?」
 「あ、ある。」
 「では大丈夫。太王陛下。」
いきなり呼びかけられて、陛下の目が丸くなる。当たり前だ。こっちも驚いて息が止まりそうだ。挨拶もしなかったくせに、何なんだ。
 「将軍の後ろから、脇を抱えて抑えてください。左様、それで結構。そこの方は左足だ。ジンシク、お前は右の腿。絶対にわしの腕にぶつかるなよ。で、医術の先生、わしが言う物を順に渡してください。」
 何なんだ。何が起こるんだ。陛下は言われるがまま、将軍の背後に回り、将軍を羽交い締めにして椅子にくくりつけていた。
 「ちょっと、わかった、布を噛ませてよ、ねぇ。」
何事か察したらしい将軍の声はまるっきり無視され、爺さんはそのまま声をかけた。
 「いいですかな、みなで押さえて、それ!」
大の男が三人掛かりで、細い身体にかぶさった。

ぎゃああああああ!!

悲鳴ではなくやはり絶叫だ。骨接ぎは、ただ一点に力をこめて、足指の付け根を縦に引き、同時に折れた甲を押さえ込んだ。
 柔らかな太腿が跳ねた。しなやかな肉の動きが伝わって、思わず手元が緩んでしまった。何やってるんだ、おれは。
 それっきり。ぐったりと力が抜けた将軍は、やはり目尻に涙を浮かべている。
 「肉の傷よりずいぶん堪えるな。すまん、あっという間で、布だと言ったのか?」
陛下は笑いを抑えながら、そのまま背後から将軍を抱いていた。指の腹で涙を拭っている。
 実に器用に、爺さんは将軍の足を包んでいった。厚く畳んだ柔らかな布を当て、布で巻いた足は丸っこくふくれている。曲げた竹は踵に沿い、折れた甲をまっすぐ挟んだ。横からも細竹を回し、それをしっかりと革紐で巻いていった。まるで堅い殻ができたようだ。侍医とコムル人が食い入るように手元を見ている。一通り包んだ後、曲げた竹と古靴の底などを使って、踵のようなものをつけて終わりだった。
 「痛みは。」
ひどい目にあったばかりの将軍は、涙目のまま不思議そうに言った。
 「ないな。痛みはない。」

 
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