屋根裏部屋
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テサギエロティカ

 新羅からの行使が着いたというので、王を筆頭に王事、内官の眉が一斉に険しくなった。友好的な関係を保つ新羅からの使者は多いが、おおよそは歓迎されるものだ。ところが今回の宰相だけは常に例外だった。
 「今度はまたどんな無理難題でしょう。前に着た時には援軍をせしめて帰って行きましたな。」
机に頬杖をついた王は、長い絹衣の裾が割れるのを構わずに、ゆったりと脚を組みかえた。おおげさに嘆く王事に頭を向ける。
 「今のところ倭とは落ち着いているんだろう?では残るは伽耶だな。」
王の即答に、王事はため息をついて繰り返した。わかっております。わかっております。
 「それから」
ヒョンゴはちらりと辺りに目を配ると、つい、と歩を進めて王の耳元に囁いた。
 「また来ておりますぞ。」
来ているとはなにが?軽く応じる王に、ヒョンゴは手を振り下し、声を落としてくれるようにと慌てた。王は仕方なしに王事につきあって声を落とす。
 「何が来ているんです」
 「あの姫です。」
王は笑った。
 「嫁いだ娘がなぜ父に帯同する?」
 「それはわかりません。王様—」
むっつりとした王事は、王の机に近づく書記を手振りで止めると、なおも辺りを伺いながら囁いた。
 「よもや面倒なことになってはおりますまいな。」
 「面倒?なぜそんなにあの娘のことを」
 「はっきり伺いますと、お手をつけられてはいないのですな?」
は!王が面白そうに笑い、頬杖を外して身を起こした。その場で聞き耳を立てていた全員が、そそくさと仕事に戻る。王は声を潜めるのをやめ、面白そうに王事を眺めた。
 「そういう心配だったんですか。宰相に弱みを握られる様なことはしないと言ったでしょう。」
 「いや、それならなぜまた来るのです。あれだけ陛下に執心していた」
唐突に言葉が切れた。—とはいえ。ヒョンゴはくるりと身を翻して逃げた。
 「誰が誰に執心ですって?」
近衛隊の拵えで、スジニが立っていた。

 

* **

 

 スジニは王の背後に控えて夜半の珍客をまじまじと見つめた。侍従がとまどうのを意に介さず、それではお戻りまでお部屋で待ちますと言ってスジニと鉢会わせたのである。先に戻っていたスジニは、困りきった侍従の態度から何を感じたのか、鎧を解いていなかったのを幸い、護衛で通した。
 それからすぐに王が戻った。足音が鳴って、入り口で侍従が小声で話している時から女はそわそわしはじめ、王が姿を見せた瞬間、立ち上がると文字通り飛びついた。仰天した王はそれでもかろうじて女を受け止め、弾かれたようにすぐ床に下ろした。
 「あー、新羅の宰相の息女で、ミヒ殿だ。」
 「まあ、はじめて名を呼んで頂きました。」
なぜ自分が護衛兵に名を通されるのかと、ミヒは微笑みながらもまじまじとスジニを見つめた。もちろん護衛のスジニは黙っている。ミヒを引きはがして王が掛けると、いつもより少し間を詰めて、その背後にぴたりと控えた。ミヒはどう見ても人妻には見えない。容貌も、態度も。まるで少女のようで、いやな媚がなかった。
 居室には茶菓が運ばれていた。嫁いで何年になるのか、女になった娘は相変わらず美しい。頬の丸みが落ちて顎が細く尖り、溢れそうな瞳がますます際立っていた。夫人らしくやや濃く紅を差し、真っ白な卵のような肌に映えた。
 「—嫁いで妻となった方が、この度はまたどうして父御に同行された?」
 「それは陛下にお会いしたいからに決まっております。」
にこにこと屈託なく笑う。王はだんだん自分の背後に暗雲が立ちこめる気がしていた。
 「そういう冗談は—」
 「あら、陛下とわたくしの仲でございましょう?」
王はむっつりと椅子に身体を預け、そっと背後の気を確かめた。スジニがわずかに動いて王を避けた。
 「陛下がおっしゃったのはウソでしたわね。」
ミヒは愛らしく眉を寄せて唇を尖らせた。
 「夫に抱かれれば忘れると仰ったのに、そうはなりませんでした。夫は」
がたん!王は脇に刀の柄の一撃を感じた。いっ。
 「申し訳ありません、粗相をいたしました。」
スジニはにっこりと笑って倒れた小卓を起こした。床に飛んだ木の鉢を拾い上げると、駆けつけた侍従には渡さずに自分で持って出た。


 
 突然ミヒが肩を震わせて笑い出した。王は憮然として脇を摩っている。あはは。声が出て身を折った。
 「やっぱりあの方が、朱雀将軍。」
くすくすと笑いが止まらない。王はますます憮然とした。
 「そんなに笑うものではない。気がついていたならなぜ—」
ようやく息を整えながら、ミヒは滲んだ涙を小指で拭った。
 「気がついたのはついさっきですもの。だってあの方、はじめは男としていらしたわ。だんだん、その、わかったのです。」
護衛を務めるスジニは完全に女の気配を消すのだ。
 「追いかけてお話しになる前に、一言泣き言を申しましてよ。陛下、夫は人柄も姿もよく人望もありますが、それと房事は別でした。むずかしゅうございますね。」
 王はぐったりと椅子にめり込んでいた。
 「それで文句を言いに来たわけか。」
 「さあ。面白いところを見せて頂きましたから、どうでも良くなりました。わたくし父のところに戻るかもしれません。」
そう言って、美味そうに砂糖菓子を舌に乗せた。
 「美しくて強くて聡いというのがあの方ね。本当に聡い方。だって」
またくすくすと笑う。
 「わたくしにでなく、陛下に当たるなんて、正しいわ。とても素敵。」
お行きになってとミヒが続けたが、王は椅子にめり込んだままため息をついていた。
 「今すぐでないほうがいいかな。きっとあいつはそうだ。」
それを聞いたミヒがまた笑った。臆病でいらっしゃる。涙目になって、珍しく早々に辞した。

 
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