屋根裏部屋
space
space
 <--TOP PAGE 青龍の森 —ながいながい間に—    
space space space space
line
space space space space
     
space space space
 

はじめに森があったのか
自分の一部が溶けて漏れだし、やがて森になったのか。
混沌とした記憶はあちらこちらに散らばってしまったらしい。
今までの自分を、ばらばらと落としながらきてしまったのだ。

そうかと思えば、ながいながい間抱えているものがある。
はるか遠くから見ていた、ずっと昔から知るひとが
粗末な木の棒を槍に拵えて野山を歩き回っていたり、
大切なものを無くした誰かが泣いていたり、
すべてが燃え上がって石まで溶けていたり、
きれぎれになってしまったものに締め付けられて
自分はますます森に溶け出しているようで
胸を押さえつけてみるがそんなことで止められはしない。

はじめに森があったのか、この森はかつて自分だったのか。
梢を通して、新緑を心地よく駆け抜けるときの、永遠に続く蒼天
あの果てから自分は来たのではないか?
木々の間を駆け回っても良いと、ここに放たれたのではないか?
雲を集めると、誰かが涼しげに見上げたり
不満げに俯いて急ぎ足になったりはしなかったか?
大地から、しめり気に惹かれてあらゆるものが生じる。
地に生じたあらゆる蒼いものが
とくとくと脈打つものを送りだすには
やがて水をよぶわたしが必要なのだ。


わたし。わたしとは。
わたしとは誰だ、森か、この樹海がわたしか?
わたしは土に繋がれているのか?
誰かがわたしに感謝する。
もうすぐ雨が降るからと木の枝で屋根を葺く。
ずっと昔から知る人がわたしをまっすぐに見上げて花のように笑う。

胸が痛い。
花のようなのに胸が痛い。
土ではない、ほかのものに繋がれているから。

 

太い蔓がじっと槍を支えていた。
それを受け取って、さらに深く森へ潜り込む尖った影がある。
胸を押さえ、前屈みに、槍を杖にしながら。

 

ちいさな足音が、生い茂る緑を踏みわけて、訝しげに、
兎でも追うように入ってくる。
わたしという森に。
たしかにはじめに森があったのだ。
もっと深く入らなければならない。
もっと深いところで会わなければならない。
何がそう命じるのか、
ながいながい間に零れてしまったものが多すぎて
何かに自分は縛られて、縛られて
そしていつも何かを待っている。


木々が囁く。
誰かがあのひとを追って、きっとまっすぐ入ってくるだろうと。
わたしという森にようやく戻ってきた、千年の待ち人だと。

 
space
 
space
       
space
line
space space space space
 <--TOP PAGE    
 
  space  
line
  space  
  Copyright © kuro-kmd. All Rights Reserved. since 2010.  
  space