屋根裏部屋
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 ソノ族の槍は小型で槍先も細く、根元には鋭い返しがついている。ヨンホは槍を片手で脇に付けると、ゆっくりと数回突きながら間合いをとった。一方、スジニの手はまだ空だ。両太腿に鞘をつけている。こちらも間合いを計って音もなく動いた。
 槍先が舞った。ヨンホは激しく繰り出してきた。突きながらだんだん間合いが詰まるのを、スジニは軽やかに退いて避けた。ヨンホは滑らかに持ち手を変えると、すぐさまスジニに合わせた。突いては頭上を回して斬りつけ、また脇に手繰っては突く。槍と棒術を掛け合わせたような動きだ。
 チョロが落ちていた木槍を拾い上げた。少し離れて立つと、ヨンホを目で追いながら倣って動きはじめた。コ将軍の目は両者を忙しく追った。
 また間合いが詰まるのをスジニが広げる。狭く小さく追い込んでいくのだ。槍として考えると変わっている。そう読んだらしいスジニは、急に退がりながら大きく回り込んだ。自分を追わせることで場を掴んだ。
 チョロの動きが完全にヨンホに同調し、一撃が空を突いてぴたりと静止した時、当のヨンホはスジニを追ってさらに一歩大きく踏み出していた。体幹が崩れ脇が浮いた一瞬の隙に、スジニが懐に飛び込んだ。地面を蹴って回転すると、ヨンホの喉元には真下から、逆手に握った短刀がつきつけられていた。
 コ将軍が息を飲む音が聞こえた。練兵場は静まり返った。凍り付いたようなヨンホから、スジニは素早く退いた。呆気にとられて静止した槍先にスジニがかちりと短刀を合わせると、ヨンホは反射的に動いた。突然また血が通いだしたように、そこから数手が組まれ、槍の型に合わせてスジニが鮮やかに動いた。とどめの一突きをスジニが脇に挟んで受けると、ひと呼吸をおいて、練兵場は割れんばかりの歓声に包まれた。ソノの一団も、近衛隊と一緒になって槍で地を突き、足を踏み鳴らして喝采を送った。

  

***

 

 「無礼をお許しください。朱雀将軍。」
少し息が上がったヨンホは、槍を収めて深く頭を下げた。スジニは何のことかわからない、という顔をつくって一礼し、王の背後、自分が守る場所へと戻った。チョロも槍を下げて戻り、王に頷いてみせた。タムドクが立ち上がると、やんやの歓声は瞬時に収まった。
 「ソノ族長ヨンホ、実に興味深い技だ。本当はすばやく追い詰める速攻の槍だろうが、朱雀将軍はこの通りすばしこいので疲れさせて悪かった。近衛隊と、槍兵にも導入したい。青龍将軍ともよく話してくれ。ご苦労だった。」
すばしこい、か。近衛隊の強者たちに、ちいさな笑みの輪が広がった。王が退席するとすぐに整列は崩れ、ソノの若者を囲んだ兵たちが、槍を手に取って問答をはじめた。

 

***

 

 「臣コ・ウチュン、朱雀将軍には大変失礼なことを申し上げました。」
 「言ってはいないから、未遂だ。」
タムドクの言葉にスジニは俯いて笑いを隠した。執務室へ戻るタムドクに従って王の背後についていた。
 「あいつら、ずいぶん喧嘩腰だったな。愛想がない部族なのか?」
 チュムチが訝しげに首を捻った。
 「ソノは族長と長男を亡くしたのがずいぶん堪えてるらしいね。あれは残された次男だけど、亡くなった長男の名を名乗っているでしょう。なにか誓いでもたてたのかとぎょっとしたけど、違ったね。」
 「王様に恨みでもあったっていうのか。」
そんなやつが武器をもって御前に上がったのかと、チュムチが色めき立った。近衛隊と談笑するソノの一行を見てスジニが微笑んだ。
 「新しい交易にもいまひとつ乗れなくて、ソノ族は凋落気味だもんね。気苦労の多い若い族長が、王様の兵をちょっとやっつけてやれ、と思ったんでしょ。コ将軍のおかげで面目を果たして、少しは気が晴れたんじゃないかな。」
 「面目ってお前、さっさとやっつけちまったくせに。」
スジニは笑って取り合わず、チュムチは俺も立ち会ってみたかったと、ぶつぶつ文句を言いながら辞した。

 

***

 

 律儀な将軍は、近衛隊舎からもう一度王の執務室へ向かった。今度はヨンホを伴って、改めて無礼を詫びて退出するつもりだった。
 回廊の途中から王の執務室が見える。三方を開け放せる空間で、元は楼閣の一部のようなものだが、外気が存分に入る空間を好んで、王はそこに机を据えていた。今日も開け放たれて、遠目にもタムドクが立ち上がるのが見える。王の在室を確認し、自然にコ将軍の足が早くなった。
 珍しげに辺りを見回しながら従っていたヨンホは、今度はいきなり立ち止まった将軍の背に突っ込んでしまった。
 「失礼を…」
一体どうしたのかと声をかけても返事がない。コ将軍は柔和な微笑みを浮かべて王の執務室を見つめていた。
 王がスジニの手をとっていた。ためすがめつ見て、やがてその指を口に含んだ。それは自然な仕草で、驚きもなく従うスジニは練兵場での将軍ではなかった。ふたりがコムルの書記にさりげなく背を向けていたせいで、コ将軍が立ち止まった回廊からはその一部始終が見えた。スジニが自分の指を取り戻すと、タムドクは惜しむようにもう一度その手に口づけた。
 コ将軍はヨンホに断りを言いながら、そのまま宮を出た。かつてのひとりぼっちの少年が、伴侶と睦まじく過ごす貴重な時間を邪魔したくなかった。

 

(了)

 
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