屋根裏部屋
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軍神

5 毒 Day-1

書記ヒョンナムの従軍日記より

 陽がない時間は風が冷たく、北の地は秋が短く感じられる。朱雀将軍の計らいで、朝夕とも暖かい汁を供し、兵はことのほか喜ぶ。
 予定の通りに行軍して三日、途中、敗走する兵を捕らえて進むが、捕虜の数すでに百余に達する。
 斥候が戻る。夫餘軍は調べの通り、三千余が陣にあり。本隊からの知らせでは、国境警備兵はいまだ三百が集まったに過ぎず、移動の気配もなし。依然警戒しながら進軍。

 右翼から敵陣に迫る。朱雀将軍は兵を二軍に分け、かたや契丹首領アティラが率いる。岩のように固まり攻め込む騎馬隊の急襲に、敵軍なすすべもなし。
 はじめ陣に矢を射込み、次いで逃れ出る騎馬を狙い撃ち、最後には騎馬のまま陣に攻め入りこれを落とす。
 夫餘兵およそ千が投降し捕虜となる。骸千余り。
 残る千、敗走す。国境を塞がれ、我らが背後には太王軍本隊、国境線に沿って潜むものと思われる。日暮れも近く、明日改めて追撃との由。

 いそぎ骸を片付け陣を整え、将軍らは天幕に収まる。湧き水が通り、野営には最適、敵軍の杭にそのまま馬をつなぐ。
 朱雀将軍は捕虜にも薄い粥を与え、兵に混じって歓談しながら同じ竃の粥を食す。アティラ首領も興が乗った様子で同席。

 戦勝を鳥にて本隊に送る。昨日王の親書が発されたとのこと。

 本日面白きことあり。
本陣からの鳥に、暗号でない紙片あり。太王陛下のお蹟にて、文面は解せないが朱雀将軍に届ける。将軍、瞬時にスジニに戻り、花のように笑う。(戻ったらわたしが切ってやる、とのみ。何を切るのか?)

 

書記ヒョンドンの従軍日記より

 国境から圧勝の知らせがあり、太王は安堵の笑みを浮かべられた。
 親書を発して二日目。早馬でまっすぐに王都へ向かえば、五日目には到着とのこと。
 前後して夫餘国内からの知らせが届く。高句麗人の手助けで、太子が獄を破り私兵を挙げた。これにより、国境に集まっていた兵は国内に向けられるだろうと読まれた。
 親書はいずれが受け取るかと、面白そうに将軍が言うのに答え、次の王に手を差し出したのだとこともなげに仰る。親書に応え、父王の犯した反逆を納めたと、そう朝貢に来ればよい。いずれにせよ来春のことだと、やすやすと仰った。
 みな深い洞察に感心し、平伏した。
 引き続き夫餘国内で太子に便を図るようにとの仰せ。鳥にて夫餘に連絡する。

 

***

 

 不寝番を残して眠りについた軍は、あちらこちらで吐き戻す嫌な音で目を覚ました。慌ただしく駆け回る足音が、スジニの天幕へも響いた。
 「水を飲むな!毒だ!」
コムルの術者が叫んでいる。鎧のまま横になっていたスジニは、固い寝台の上で飛び起きた。毒?天幕を飛び出すと、手近な兵を捕まえて叫んだ。
 「馬は!?馬を見て来い!」
 赤々と照らされた陣では、幾人もの兵が地面をのたうち回っている。病人を集めるようにと指示を出し、スジニはようやくコムルの術者を捕まえた。
 「水って、どういうこと!?」
 「湧き水に毒を放ったらしい。」
 「何の毒」
 「それはまだわからん。夜が明けたら応援を呼ぶ。」
スジニは息を詰めて聞いた。
 「死者は」
 「数はまだわからん。—ああ、死んでる。」
肩を怒らせたまま息を吐く。無駄に死なせないと誓ったのに。順調な戦闘の後で、何ということだ。
 「水だけ?食事はどうなの。火を通したものは。」
ヒョンナムは、スジニの両肩を抑え、じっと覗き込んだ。
 「ハク将軍が亡くなった。契丹の三将も。おそらく兵とは違う毒だ。」
スジニの背筋を冷たいものが走った。
 「指揮官を直接狙った。これは暗殺だ。お前、何を食った。」
幼い頃から互いを知る仲だ。二人とも昔の口調に戻っていた。
 「粥。兵と一緒に。アティラもいた。」
深い安堵のため息が漏れた。よし。よし。
 「少なくともお前と首領は無事か。」
 「—いや、無事というには—」
スジニが膝を折って崩れた。
 「新しい水が要る。探して。」
 そのまま地面に膝をつき、四つん這いになって吐いた。続けざまに、胃の腑が裏返るような、猛烈な吐き気が襲った。

 

書記ヒョンナムの従軍日記より

 水に毒物が混入。兵に死者多数。
 また別種の毒にて将軍四名暗殺さる。

 夜半、多数の兵に恐ろしいほどの嘔吐。水場にて多く倒れ、その大半が痙攣して間もなく死亡。食料の鶉に水を飲ませると、即時痙攣して死す。
 急ぎ全軍に警告。灯火を炊き上げて中毒者を集める。

 将軍三名が天幕にて死亡。(高句麗軍ハク将軍、契丹軍二将)いずれも口端より流血し、顔色青。
 兵、捕虜ともにただ嘔吐。息が吸えずに痙攣する者は死亡。そうでない者も発熱し、衰弱。
 馬も同様、半数が脚を折り横たわり、四十余がすでに絶命。
 朱雀将軍と契丹の首領は兵の毒にて存命。両者とも嘔吐ひどく高熱にて衰弱。

 水への混入は、毒が大量なこととその症状から、植物性の毒を疑う。ツツジ毒に似る。嘔吐、高熱、呼吸困難、筋力障害などあり。
 猛毒はあまりに種類多く、推測不能。
 夜明けを待ち独断で本陣へ連絡の心づもり。

 
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