屋根裏部屋
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テサギエロティカ

 豊かな黒髪が広がった。寝台に巡らせた薄い幕を透かし、白い影が身を反らせて喘だ。王は自分の女を見上げた。細い腰を掴み深く引き寄せると、ため息はさらに深くなった。身を起こし、顔を覗き込む。荒々しく頭を掴んで深く口づけると、舌が応えた。このまま溶けてしまいそうだ。

 

***

 

 人前でのスジニは淡白な態度を崩さず、将軍と太王、家臣と王の一線を絶対に越えない。相変わらず少年のようにしなやかな身体は男にも女にも見えた。どちらかといえばタムドクのほうに揺れがある。ふと気を抜くと肩を抱いてしまいそうな隙があった。そんな時スジニは自然に身を逸らしたり、猫のような身のこなしで音もなく避ける。基本から鍛え直したスジニは圧倒的な腕前になり、この武人から女の気配を感じ取れるような余裕のある者はいなかった。
 それでも長時間の訓練の間、雨に濡れた肌に上衣が貼り付いたり、身を捻って細い腰が際立ったりするとみな太王のことを思う。王は目を細めてそんな将軍を見やったが、口元に薄く笑みを浮かべてすぐに視線を消すのだ。指を絡ませ抱き合っているのとは別種の甘美なものがあった。男装の麗人のような将軍が太王に従って背後に立っている。王は堂々と前だけを見ているが、座を外しながら少しだけ頭を廻す。それを合図に、朱雀将軍は影のように沿って動いた。ぴたりと後ろを守る将軍は、絶妙な間合いで王に従った。
 「あいつは元来酒豪でおそろしく口が悪いんだ。最近ではようやく黙っていられるようになったな。」
チュムチが呟く。もちろん軽口をかければそれなりのすさまじい悪罵が返ってくるが、王に沿ってからのスジニは白い花のようになりチュムチはどうも面映い。
 「カンミ城主だって知ってるよなあ。」
スジニの話題で会話を振られて、いつもむっつりと黙っているチョロが口元をわずかに上げた。宴席に出ても酒を飲まず、ただ座を暖めているだけのチョロは次第に壁際に下がり、相手を捜していたチュムチに捕まってしまったのだった。
 「何にせよあんな女は他にいないな。」

 

***

 

 朱雀将軍が訪れると、それは人払いの合図だった。太王に仕える者はみな寝間から下がった。水や酒、食事があらかじめ運び込まれ、扉が閉まると給仕すらつかなかった。タムドクとスジニはふたりきりの夜を過ごす。

 

***

 

 貪るような舌をようやく逃れ、甘い息が漏れた。厚い胸が押しつぶすようにのしかかる。白いしなやかな腕が背に廻され、お互いを強く抱きしめて、どちらからともなく深いため息をついた。逞しい背に割られた脚が腰を締め付けた。

 

***

 

 近衛隊にとって、決してあってはならないことだった。刺客は宴に紛れ、奥へと侵入したようだった。太王の首をとれー朱雀将軍が侍る時は、人払いされて手薄だとでも伝わっていたのかもしれない。
 近衛兵の死体に躓いて下女の悲鳴が上がった。あたりに緊張が走り、異変を察したチョロは槍を手に跳んだ。チュムチも遅れてドスドスと卓を乗り越えた。酔いつぶれた新羅の客人は、喧噪の中で鼾をかきはじめていた。奥へと走りながらチュムチが唸り、チョロが腕を上げてそれを止めた。
 「静かに。」
その声に皆足を止め耳を澄ました。もっとも奥まった王の寝所だ。陶器が壊れる音をめがけて一斉に走った。
 踊るように回転して寝台を飛び降りた白い脚が、黒衣の男を鋭く蹴り上げた。数間も飛ばされた男は即座に向き直ると、刀身を切り詰めた妙な刀を煌めかせた。それをかわして短刀が飛ぶ。正確に手首を切り裂いて刀が落ちた。朱雀将軍が続けて短刀を構え、投げる刹那に王の声が飛んだ。
 「殺すな!」
瞬時に的が変えられた。右耳をまるごと裂かれた賊は弾かれたように後ろに倒れ、手首を押さえて転がった。チョロが飛びかかって口をこじ開ける。がくがくと震える下顎から毒の丸薬を摘み出すと布を丸めて口に突っ込み、近衛兵の足下に突き転がした。羽交い締めにして縛り上げると、観念したようにその肩が落ちた。
「尋問しろ。」
王の剣が閃いた。剣先で寝台の上掛けを拾うと朱雀将軍に投げた。将軍は素早く布を巻き付けたが、その下は裸身が透けるような薄衣一枚だった。その姿を隠すようにゆっくりと王が立ち塞がった。
 「ふ…はは、は、参ったな」
その場にしゃがみこんだスジニの声だった。つられたように王が微笑んだ。
 「ご苦労だった。下がってくれ。」
 皆無言で速やかに退出し、残党がいないか、侵入経路を探す者、客人を警護して送るものなど、慌ただしく仕事に就いた。王の寝所にまで至った賊は警護に衝撃を与えたが、朱雀将軍の姿はそれ以上だった。スジニは閨でしか髪を解かない。腰に届く艶やかな髪としなやかな白い肢体、まといつく薄衣での正確無比な攻撃、つい今しがた目にした光景にその場の全員が言葉を失っていた。一言も発しなかったが、さきほど漏れたあの言葉はまぎれもなくスジニのものだった。チュムチが思い出したように声を出して笑い、チョロに向かって言った。
 「とんでもないやつだ。」

 

***

 

 腰にまきつく脚を押さえて引き、いっそう深く王が貫くと、すすり泣くような声が漏れた。絶頂が近い。折り畳むように抱きかかえ、一気に突いた。タムドクはスジニの炎に溶け、灼熱の中に解放される。

 

***

 

 「あんな姿をよりによってチュムチに見せてやることはないな。」
ぐったりと息をつくスジニを抱き寄せ、腕の中に閉じ込めた王は、腹這いになってその顔を覗き込んだ。
 「鉄面皮を被るのに慣れたつもりでしたが…あれは」
立ち回る自分の姿を目に浮かべ、情けないやら恥ずかしやら何ともいえない渋面になったが、結局笑いに負た。それをこらえて涙を浮かべていた。
 「…ああ参った、兵の配置を変えた方がいいかもしれません…はは、我ながら…、申し訳ありません。」
最後だけはきっちりと言葉を揃えた。
 「おい、あまり笑うな。私の盾になったんだぞ。」
 「そういうお約束です。」
 「この世で一番辛い約束だ。」
王は将軍に口づけた。その後両手をとって集めると、その手の甲に改めて口づけた。
 「でもーおわかりですね?」
 「もっとまずい状況では確約できない。」
 「王様でいらっしゃいます。」
 「ーわかっている。」
タムドクの胸にスジニが寄り添って、いつの間にか寝息をたてていた。
明日の朝は少し寝かせておこう、タムドクはその頬を撫でながら、近頃はほどよく訪れる眠りに入って行った。

 

(了)

 
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