屋根裏部屋
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テサギエロティカ

 「呼ぶまで誰も来ないから安心していろ。」
 「そう言われても…」
 呼べば応えるところに誰かが侍っているということだ。王様なのだから当たり前とはいえ、なんだか落ち着かない。
 「それが精一杯だ。ただ、控は遠い。なにしろ護衛には、すぐ側に近衛隊長がついているからな。」

 

 百済との国境戦から戻ると、王様はいつものように中隊長以上を大殿に集めて言葉をかけた。これを楽しみにしている兵はたくさん居るが、隙間なく並んだ兵士と顔を突き合わせ、将軍らに細やかに声をかけるのは、たいそう時間がかかる。ようやくみなと勝ち戦を噛み締めた時にはずいぶん時間が経っていた。まだ名残惜しそうな兵たちに、王様はきらりと笑みを残して退出した。
 任を解かれるまでは後に従うのが常だ。よほど疲れているはずなのに、そんな様子は微塵も見せない。黙っているけれど機嫌のいい背中について、お部屋まで送った。すぐに侍従が盥を持ってきたので、自分も鎧を脱ぎたくなり、太子宮に下がろうと挨拶をした。
 それではこれで、といつものように頭を下げると、王様はいかにもわざとらしく、目を開いてにやりと笑った。
 「今日はもう遅いからこのまま居ろよ。」
 は?
 絞った手拭いが飛んでくるのを反射的に受けた。
 「お前がここに通うんだろう?」
 えっ…
 侍従を下がらせ、その手で手招きをする。
 「早くこいつを脱がせてくれ。そうしたらお前のも解いてやるから。」
手甲を外してぶらぶらと手首を振りながら、王様は吹き出す寸前だ。
 「なんて顔してる。今日からお前はここで寝るんだ。寝間着が出来てるぞ。」
 出来てるって。いつの間に誂えたんだろう。まさか回軍の途中でそんなことを知らせでもして?慌てて奥へ回ると白絹が掛かっている。一緒に掛かっている王様のそれを小さくしたようなつくりだった。
 「よかった…」
 思わず口をついて出た。
 寝間着と聞いて、後宮にあるような妃然としたものをつい思い出した。面倒くさくて指示をしないでいたら、任された女官がうきうきと揃えてしまった。豪奢な刺繍や、肌が透けるような薄衣や、そういうものはこの部屋に似合わないし、第一、後宮のそれもいまだ身に着けたことがない。この先もきっと一生着ないだろう。
 何だと問いかける目を無視して、背中に回って紐を解いた。寝間着か…。顔が熱い。そうか。ここで過ごすということは、暮らすということは、こういうことか。
 「あー、あの、鎧を解いたら、ちょっと太子宮に行ってきます。いろいろとその、支度というか…ですね、帰って来たばかりだし、アジクにも会わないと。」
 革帯を解くと、前に回って鎧を抜き取る。ふうん。気のない返事に顔を上げると、乱暴に身体を回された。珍しくわかりやすい。ちょっと機嫌が悪い。
 「まあ仕方がない。食事はこちらでするな?」
 引っ張るように紐を解くのでがくがくと身体が揺れる。
 「なんでいつも息子と張り合わなくちゃならないんだ。」
ぶつぶつ呟くので、鎧を取りに来た侍従が目を丸くしている。
 まったく侍従というのは、気配だけで主の様子がわかるらしい。王様が置いた鎧をそっと引いて音もなく出て行った。ようやく鎖帷子を外し、髪を前に回すと、首筋に手拭が乗せられた。受け取ろうとして手が重なり、王様が笑い出した。
 「そうだな、確かにそうだ。いろいろ支度をしてと思っていたんだった。これでは—」
 「なし崩し、ですか?」
 「すまない。ここにお前が居ると思うと嬉しいんだ。」
待ってる。柔らかに微笑まれて、胸の奥を掴まれたような気がした。

 
 「鎧をこちらに置かせて頂きます。そうすれば調練の日も都合がいいのでお願いします。」
 久しぶりの肉だ。取り合わせた香草も申し分ない。ふた月近くも戦場で暮らした後なのに、王様は相変わらずのんびり摘むように食べるので、どうも調子が狂う。
 「それから—あの、、、こちらで眠りますが、朝、一度太子宮に戻ります。」
 「どうして」
 怒ることはないと分かっているが、それでも不機嫌な王様は知っている。そうならないようにはどう言ったものか、言葉を探りながら顔色を伺った。
 ただでさえ戻るのが遅くなり、着替えを済ましていた王様に倣って寝間着姿で食事をしていた。食事といっても酒をつけた簡単な膳で、給仕もいない気楽なものだ。誰もいないのが逆に不自然なくらい静かだ。察した王様が笑った。
 「落ち着かないから人は下げた。給仕はつかないし、着替えたら誰も入らないように言ってある。」
 着替えたら—。やっと意味がわかって顔が熱くなった。王様は素知らぬ顔で先を促す。
 「どうして朝戻るんだ。」
 「一日の始まりには居てやりたくて。」
 「アジクか。」
 「一日の終りは王様と、せめて始まりはアジクと—」
 王様はくすりと笑って酒を舐めた。甘やかすなと叱られるだろうか。杯を置き、こちらを見た微笑みが深くなった。
 「もうすぐ名を与えるのだから甘やかすなと言いたいが、だんだんと離れればいい。好きにしろ。ただ、眠っている間に消えるなよ。」
 「えっ、その、王様より早く起きるなんてできません。」
王様は朝も早く、眠らない王と言われている。今も眠れないのだろうか、むかしは夜毎にうろうろと歩き回っていた。一緒に夜を過ごそうと言ったときも—。どきりと自分の鼓動を感じて、思わず胸を押さえた。
 「それじゃああの手この手で起こしてやる。ところで、そろそろ将軍も母親も忘れて、わたしだけのものになってくれ。」
 微笑んで、なんてことを!なんてことをしゃあしゃあと言うのか…
 衣擦れの音がして、椅子を立った。動けずに仰ぎ見るとやはり笑っている。
 「そんなに恥ずかしがるな。こちらまで恥ずかしいじゃないか。休むぞ。」
 そのまますたすたと奥へ回る。
 「こちらへ来い。」
 甘い声だけが聞こえた。

 

 
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