屋根裏部屋
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テサギエロティカ

「今日のデータ、ピックアップ分だけ撮影記録と突き合わせといてくれ。」
「済んでますよ。」
「それじゃ1セット、クライアントのサーバに入れといて。
それが終わったら今日はもうやめだ。」
意外そうにスクリーンを離れた視線が、声のほうを振り返った。
「週明けの撮影、コンテあれ以上描かないんですか?
あれでジンシクにライティング伝わりますかねぇ。」
「あいつだって一人前だ。やれるさ。あまり描き込むと、撮る前に萎える。」
あはは。
笑い声に続いてクリック音が、スタジオとつながった広い天井に響いた。
「CANDYで待ってる。」

—えっ?先に行っちゃうの?

振り向くより先に、髪が掻き上げられた。
うなじを唇が掠める。
振り仰ぐと、細いシルバーフレームの奥で、瞳が微笑んだ。
艶のある長髪が舞う。ビンテージジーンズの脚が、広いストライドで消えていった。
細い指が猛然とキーを叩く。データの転送を知らせるバーは、見つめても速度は上がらない。

 

***

 

カウンターの右端が指定席。
しわしわの白シャツの広い肩が光ってるように見える。
細い眼鏡のフレームが、控え目な灯りの煌めきを乗せてる。
顎の線がゆっくりと動き、振り向いた口元がほころんだ。
白い指先が、隣のスツールをトントン叩く。
「あたしも同じの、ハバナの7年、ソーダで。
レモンもライムも」
「いらない。」
なじみのバーテンダーと声が合い、ひと呼吸して笑い合った。
照れを隠すように、鉢に盛られたピスタチオをひとつ、ふたつ、数えるようにかすめ取る。
「待っててくれてもいいんじゃないですか?もう終わるところだったのに。」
人差し指が、唇を押さえた。
「敬語になってる。」
覗き込むような微笑み。
タイミングよく滑り込んできたグラスを取り上げると、何も言わずに流し込んだ。
くすりと笑いが漏れる。
「なに。」
「いかにも“ボス”との情事に不慣れなアシスタント—」
「なにそれ、っていうか、そのまんま…」
ぱちりと音を立てて割られたピスタチオが、唇に押し込まれた。
「待っていたかったんだよ。
たまには待ち合わせ、したいじゃないか。」
「はああ?ボスって案外乙女ちっく…」
「タムドク」
「えっ」
「名前で呼べって言ったのに。」
ええーと。
「…誰かさんって案外乙女…」
またピスタチオが押し込まれ、スジニは笑いながらその指を噛んだ。

 

***

 

革張りのソファに掛けたシャツは、すぐにするりと滑り落ちた。
それに構わず、ベッドに身を投げる。
「酔っぱらい、お水は!?」
ベッドルームを覗き込むと、枕に片肘をついたタムドクと視線が絡んだ。
眼鏡を外し、無造作にサイドテーブルに載せる。
かちり、と小さな固い音。
何かのスイッチが入った音—
「なんだ、案外だいじょうぶ…」
「こっちに来いよ。」
「お水は?」
「うーん、きっと後で、お前が欲しがると思う。」
目を伏せた首筋が、薄らと染まった。
「あのねえ…」
「いいから、来い。」
敬語はやめろって言うくせに、どうして自分は命令口調かなあ?
しかもスタジオとはまた違う、逆らえない声を出すんだから。
顔を赤らめたまま、スジニの口は尖っている。
それでも素直にキッチンを出て、声の主へと歩いていった。

 

***

 

「ちょ、シャワー、浴びさせて…」
「一日の終わりに抱き合ってるんだから、このままでいい。」
「いいって、それはあなたの…うわ、ちょっと、ボス…」
「だいたい、どうしてボスって呼ぶの?前の仕事の名残り?」
組み伏せられたまま答えない。
意地悪く、重ねてタムドクが聞いた。
「前のボスとはどうだったか聞かないけど。」
さらさらとしたリネンに押し付けられて、いきなり膝が割られる。
身に着けたものはそのままで、スジニの体温はすでに上がっていた。
「ボス…」
「ベッドでまた言ったらお仕置きする。」
押さえ付けられたまま、ゆっくりとカットソーが抜かれた。
抗う気なんてないけれど、なんだか癪に障る。
どうしてこの人はこんなにいつも余裕シャクシャクなんだか―
でもダメ。
すぐに何も考えられなくなる。
はじめは靴まで履いてたはずなのに、いつの間にかランジェリーだけに剥かれてる。
ジーンズの脚が憎たらしく、裸の膝を割っているのはなぜ…
細い顎が掴まれた。
「ボスじゃない。タムドク。言ってみ?」
笑って身を捩ると、覗き込む顔がついてくる。
「名前で呼ぶのが、そんなに大変?」
押さえ付けたまま笑い出すと、器用にジーンズを緩めた。
爪を立てて鳴くときは、いつもあんなに呼ぶくせに—
「うわ、えっ、ちょっと―
あ、うそ。あ。 」
強引に引き寄せられ、そのまま入ってくる。
「うそ、あ。あ!」
言葉が続かない。
侵入して落ち着いたように、深く息をする。
頬擦りをするように、胸に顔を埋めた。
「すごく、変なこと言っていい?」
「ヤダ、って言っても―言うくせに―」
敏感なところをさんざん噛まれて、すぐ息が上がった。
「スジニのこと、ずっと前から知ってた気がする。
こうしてると―」
深く腰を引き寄せた。
ああ―。自分の知らない奥底が震え、甘い声が上がる。
「知ってるところに帰ってきた気がするんだ。
おれ、やっぱり―おかしい?」
「え、あ、わかんない。あ。わかんない…けど…」
「けど?」
「なんか…うれしい…あ」
そのまま目の前が白く霞んだ。
もう言葉にならない。声だ。ただ声を上げるだけ。
お互いの背筋が震えたとき、確かにスジニも感じた。

 

あたしも、あなたを、知ってた気がする。
ずっと、ずっと。

 

(了)

 
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