屋根裏部屋
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テサギエロティカ

 相変わらずきな臭い南の国境で、要衝の山城が百済に攻められていた。高句麗軍も馴れたもので、小規模な軍を率いた将軍たちが入れ替わりで鎮圧に向かうのが常だった。それでも近衛隊長を兼ねる朱雀将軍が出るのは珍しい。将軍の出兵は、もっぱら太王に同行する親征に限られていたが、今回は急を要する出兵で、どうしても他に出られる将軍がいなかった。
 「わたしが一番機動力があります。」
 「そんなことはわかってる。」
 王は頬杖を外して頭を振り、首をほぐすような気のない素振りを見せた。袴の裾を蹴って脚を組む。緊急の会議は予定外のことで、近衛隊長の出兵もまた想定外だった。
 「小軍で行って、さっさと抑えてきますよ。一千ちょっとで。」
 「一千か。まあいいところだな。海岸を抑えたらおれたちも合流できるが、そんなに手間はとらんだろう?」
 ほぼ時を同じくして、チュムチも南西の海岸線へ出兵する。百済と海賊に睨みを利かせることが目的だ。チョロは大規模な軍を率いて、多数の将軍たちとともに戻ったばかりだった。
 朱雀将軍の出兵と陣容について、おおよその結論が出たところで散会となった。いつになく笑みがない王の顔色を伺っていたチュムチは、去り際、ああ、と合点がいった声を上げた。
 「王様、スジニなら大丈夫。あいつは連戦常勝、無敵の朱雀将軍だ。それともあれか、遠くへ離すのはさみし、うほっ!」
 チョロの膝が大男の膝裏を突いた。そのまま青龍将軍に引き摺られるようにして、白虎将軍は消えた。
 執務室へと立ち上がった王が、肩越しにちらりと視線を投げた。定位置にいるスジニが口の端を上げている。
 「なんだ」
 「そう淋しがらないでください。すぐに戻りますから。」
肩越しの視線が固まった。すぐに後ろ手を組んで歩き出す。その背中に従うスジニに、素っ気ない声が届いた。
 「せいぜい独り寝を楽しむことにしよう。」
 冗談を返したものの、いつもは見られない何かが、かすかに眉間に浮かんでいた。それはよほど側近い者にしか察することはできなかったのだが。


 
 出兵の日。
 早朝、まだ薄暗い光の中、人払いされた部屋には、革と鉄が立てる固い音しかなかった。常ならば白絹の夜着のまま、まず将軍が太王の鎧の世話をして、次に王がそっと将軍の夜着を脱がせて着せ付ける。こと出兵にあって、太王が絹の衣を着たままなのははじめてのことだった。
 早々に起き出して太子宮に戻り、育ての子である太子に挨拶をして、戻った時にはすでに下着も鎖帷子も、かっちりと着けていたからか。不機嫌そうなタムドクの視線に肩をすくめ、スジニはされるがままに立っていた。乱暴に腕が突っ込まれ、抱きつくようにして胴を着せると、肩を押されてぐるりと身体が回された。一筋に結わえた髪を掴んで前に回すと、荒っぽく紐が引かれ、背が閉じられていった。
 ふたりとも無言のまま、革帯を締める。最後は自分で端を折り込みながら、スジニは身体を回して椅子に座った王に向き合った。
 太王は艶のある絹の宮中服をまとい、礼装の沓を履いていた。一筋の乱れもない結髪、輝く冠をつけて無言で坐っている。出兵の前、神殿で戦勝を祈り、その後大殿で兵に言葉をかけるための装いだ。このような小さな出兵では、隊長以上の兵と将軍は大殿からそのまま厩舎へ、それから城門を出て練兵場の軍に合流する。
 「気をつけますから。一人の兵も無駄には死なせません。」
 まだご機嫌斜めかと、将軍は無言でかぶりを振る王の目を覗き込んで、いつもの約束を繰り返した。その奥には確かに笑みがある。スジニの口元が小さく笑った。
 「王様の国はわたしが守ります。」
 一歩を近づくと、太王が見上げる。そっと手を伸ばして頭を抱き、スジニはその白い額に唇をつけた。
  「これではまるで逆だな。」
 目を瞑り、まるでいたわり護るような唇を受けた王が笑う。
 「今日はこれでいいんです。」
 スジニも微笑んだ。
 ではお前から、口づけをくれ。
 目と目が合い、無言の求めに唇は半ば開いている。頭を抱いたまま、スジニが屈み込んだ。椅子に手を掛けたまま、浅く坐って仰向いた王の、顎の線が際立つ。覆い被さるようにして、ゆっくりと唇をあわせ、どちらからともなく開いた。深くかみ合った顎が何度も入れ替わり、溺れそうな息を吐いてようやくスジニが顔を上げた。
 すぐに手甲をつけた手首がぐいと引かれた。
 スジニの頭を後ろから引き寄せる。貪るように絡んだ舌が、ゆっくりと互いを確かめあった。やがて将軍の鎧が小刻みに震え出すと、ようやく解放された。石壁の部屋に深い吐息が満ちた。
 「昨夜のお前を思い返して待つとする。」
囁きはスジニの耳を赤く染め、小さな拳が絹に包まれた滑らかな胸を突いた。

 

 

 
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