屋根裏部屋
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テサギエロティカ

 酒の瓶を置き、水の瓶を取る。伸ばした手がぱたりと倒れ、半眼になった視線がこちらを向いた。
 水を口に含む。無言の求めに応じて唇を合わせると、ゆっくりと流し込んだ。
 「コ将軍は」
 もう一度水を含ませる。絡め取られる前に慌てて離すと、唇が開いた。休むことなく言葉が流れ出した。

 コ将軍は、子どもにとってもいい教師だった。ああやって近衛兵を鍛え上げたんだろう。喋りはしないのに、手合わせはまるで話をしているようだった。いろんなことが聞こえてくるんだ。そんな間合いでは、太子はもう数回死んでいます、とか。

 思わず吹き出した。
 「そんな風におっしゃいますか。コ将軍が?」
 ようやく熱をもった自分の腕を、そっと伸ばしてみる。酒の力を借りねばならないなんて情けないが、それでも今夜の王様には自分が入り用なはずなのだ。一緒に水底で膝を抱える相手が。
 被さるように、胸を合わせて頬に口づけた。髭をこすりつけるようにして、もう一方の頬にも唇を這わせる。暖かい息がかかった。
 「ほかには何を?」
 王様は目を閉じている。投げ出した腕を追い、手のひらを重ねた。ざらざらと大きく、顔立ちに不似合いな、大好きな手。
 「全力でこいと、何度も言われた。そうでなければ強くならんと。どこかで太子は遠慮している。人を打つことを畏れていると。」
 「そうだったのですか?」
 ゆっくりと目が開いた。わたしの目の真下で、王様の目はどこか遠くを見ている。きっとそこには細っこい少年と、それを兄のように見守る人が映ってる。
 「そうだな。きっと。そう言われた日、初めて槍で将軍を打った。思い切り。」
 「それで?」
 「それは嬉しそうに笑っていた。」
うっとりと目が伏せられた。王様自身が笑っている。思わず両手で頬を挟むと、口づけた。柔らかな唇を割り、ざらりとした熱い舌が合う。そっと吸いながら引っ張った。この人が欲しかった。
 「スジニ」
掠れる声が呼んだ。
 「スジニ」
腕を回して思い切り抱きしめた。そのまま耳元に口づける。滑らかな胸を手のひらでなぞると、肌がひくりと震えた。そうしてますます互いの肌が熱を持つ。
 「酔いは—足りてるのか」
 「いえ、ええ」
先ほどの王様と同じだ。よくわからない答えに、急に力を戻したように王様の手が腰を掴んだ。そのまま体の上に乗せられる。跨ぐような格好で脚が開いた。思わず閉じようとして、強引に引き寄せられた。
 「だから足りているかと聞いたのに。」
 胸を探られて、火がついた。恥ずかしさなのか、愛おしさなのか、慰めたいのか。それともただこの人が欲しいだけなのか。王様の前ではいつだってすぐ、ぐちゃぐちゃになってしまう。
 焦らすような指が、ゆっくりと鎖骨をなぞった。そのまま回り込んで、手のひらが肩口を丸く撫でさすった。
 慰めを、お望みですか—
 自分でそっと紐を引くと、胸帯はぱらりと緩んだ。引き抜こうとしたが、簡単には抜けない。焦って身を捩っていると、体の下で白い歯が溢れた。
 「この間の戦に出るだいぶ前だ、コ将軍に聞かれた。ずいぶん難しそうな顔をして言うんだ。陛下、わたしは陛下からは王妃を、スジニからは女人としての幸せを奪ったのでしょうか、って」
わざと作った声色がおかしくて、半分落ちかけた胸帯をそのままに、笑ってしまった。
 「それで何とお答えに?」
 「何も奪うことにはならない、近衛隊長のまま娶る、と。」
そんなことがあったのか。あのコ将軍がそんなことを気にかけて。そして王様は、そんな風に答えて。ぐっと屈み込んだ胸の先を、緩んだ布の間から舌がなぶる。けして深追いしてこない唇を求めるように、自分から体を落とした。
 寝間着の下で、潤いが滴っている。
 知られたくない。
 でも知られたい。
 知らせたい。
 こんなに、こんな風に欲していると。
 どうやっていつ袴を解いたのか、よくわからない。自分の潤いが王様を濡らしたとき、あんまり恥ずかしくて、顔が見られなかった。背けた目の端に、大きく広げられた腕が見える。掠れた囁き声。急かすような懇願。
 おいで。来てくれ。
 寝間着の裾を後ろに払う。そのままゆっくりと、熱い楔に腰を沈めた。
 声が漏れる。長く尾を引くような吐息は、わたしのじゃない。下から、もっと深いところから、安堵の声がする。
 「それで、将軍は何と?」
ようやく尋ねた自分の声も掠れている。まるで世間話でもするように何気なく、会話をなんとか続けることで正気を保ってる。
 ああ。吐息に混じって、囁くような息が漏れた。
 声を上げて笑ったよ。それはようございました、だと。
 ふ、くす、とふたつの笑いが混じった。倒れ込んでもう一度きつく抱きしめた。わたしのすべてが王様を包むように。
 スジニ—
じっと頭を抱いたままの腕の中で、王様が呻いた。
 繋がったまま、唇を指でなぞる。いつも、全てを覆ってしまう微笑みを浮かべた唇を。あの微笑みを、今は拭うように。
 くぐもった声で、また呻き声が漏れる。背中を甘い痺れが走った。噛まれた薬指がそのまま口に含まれ、じわりと吸われて舐め上げられた。舌が指の股をなぞりはじめる。逃げるように浮いてしまった腰はすぐに引かれ、ようやくひとつ、律動を刻んだ。


 抱いてあげる。

 

 水底にいてもいいんですよ。王様。わたしも一緒ですから。
 そこはもう淀んでいないし、澱に曇ってもいない、光が差し込む静かなところです。
 ふたりなら、そういう哀しみ方ができるでしょう?

 

 

(了)

 
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