屋根裏部屋
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朱雀の将軍

4 泉

 真っ白な衣からのぞいた足先もまた、続きのように白い。滑るように音もなく、ためらいのない足取りが水面に触れた。そのまま進んでいく。水に浮いた裳が広がるに任せていたが、腰が沈もうというとき、億劫そうに水中でそれを外した。ふわりと浮かんだ裳が背後に残された。
 タムドクは瞬時に地を蹴っていた。ざぶざぶと水を蹴立てて進むが、女は一向に振り向きもしない。ようやく追いつくと肩を掴み、もう片腕を細い腰に回して引いた。力が抜けたように女の腰が折れ、がっくりと身を任せた。
 横抱きにして岸に戻ると、泉はなにごともなかったようにまた静まり返った。それにしても軽い。水から上がっても、重さというものを感じない華奢な身体が、小刻みに震えている。今ではしっかりと首に腕を回しているので、タムドクはようやく安心した。少なくとも、死ぬ気は失せたようだ。
 そっと草地に降ろす。薄衣一枚に上衣だけという姿で、女は水面を見つめていた。濡れた布が貼り付き、白い乳房が透けている。目のやり場に困ったタムドクは、やおら、ぷかぷかと浮かんでいる裳に向かって、ざぶざぶと水を分けて歩き出した。

 

 王の狩り場ではなかったが、白い鹿を見た者がいるという。それは吉兆だと皆が盛り上がるので、日頃の務めへの報いとして、つい狩りを言い出した。スジニが消えて、四年目の晩夏だった。
 来てみればなかなか山が深く、地元の豪族たちは、太王自らがなにごとかと、おそるおそる窺っている。チュムチが張り切って近衛隊の騎馬を率いたが、白い鹿は影も形もない。チョロはいつの間にか消えてしまった。これだけ森が深いと、奴なりの楽しみがあるのに違いない。

 

 裳を拾い上げて振り返ると、女はじっとこちらを見ている。たまたま迷い込んだ泉で汗を流そうと、袖をまくり襟元を寛げたところだった。太王の紋章が入った革の胴を外したので、その身が知れるものは何もない。
 それにしても、美しい泉だ。膝の上まで水に浸かったまま、タムドクは頭を巡らした。深い木立に囲まれた泉は、正面の高い岩壁から水が涌き、小さな滝になって流れ落ちていた。滝壷のあたりは深い翠色を帯び、やがて青く澄んだ水が浅く広がって眼前に続いていた。ただ水音だけが響いている。
 「こんな美しいところで入水か。」
 ばたりと濡れた裳を置くと、女がタムドクを見上げた。乱れた黒髪の間から、憂いを帯びた大きな瞳が現れた。真っ白な肌、薄く弓形に整った唇だけが紅い。氷のような美女だった。
 「色事に絡んだ自死の名所です。何人もの男女がここで契り、手をとって死んだと。」
とてもそんなところには見えない。乾いた声で淡々と話す女には、死のうとした者の動揺や興奮がなく、タムドクもついそれを忘れていた。
 「そなたは—ひとりで死ぬところだったのか。」
自嘲するように女は続けた。わたくしにも、わたくしが統べる山にもふさわしい。冷感で何人もの夫に疎まれ、子を成さず、石女として遠ざけられておりますから。
 狩りの前に、おそるおそる挨拶に来た幾人かの豪族の姿が目に浮かんだ。あの中にこの女の夫もいたのだろうか。これといって目立つところもない男たちは、太王の前からそそくさと消えた。
 「だから死ぬのか。」
 「怒っていらっしゃるのですか。」
 「わたしは死のうとする者が嫌いなんだ。」
見上げた大きな目が、いっそう潤んだ。吸い込まれるように坐ると、手持ち無沙汰に裳を絞る。真っ白な指がその手を取った。
 「それに、男にはわからぬ理由だな。」
押し当てられた胸は暖かだった。自分で冷感と言いながら何をするのか。見つめる女の目は蒼い泉を映している。どこからともない声がタムドクを満たした。

 わたしを捕りに来たのでしょう?


 顎に手をかけて唇を吸うと、おずおずとして応えない。あまりに不慣れな口づけは不憫なほどだ。やんわりと差し入れて、ようやく唇が開いた。ゆっくりと吸い上げる。かすかに身体が熱を帯びた。
 濡れた衣の下に手を這わせると、思いのほか肉付きのいい肌が掌に吸い付いた。ゆっくりと撫で上げ、掬い上げる。女が小さく呻いた。胸を開き、舌を這わせる。ようやく、またひとつ、呻いた。
 タムドクのほうが堪えきれなかった。膝頭で脚を分ける。ようやく潤ったというような、固い身体を押し開いた。軋むようだ。
 無理矢理押し入ったようで慌てたが、女には慣れたことのようだった。半眼を伏せ、ただ身体を合わせている。ゆっくり。ゆっくりと、タムドクは動いた。女の唇を吸いながら、胸に抱きとって確かめながら。やがて少し潤いが増し、こじるようにすると、息が漏れた。もう一度繰り返す。
 気に入ったのか。こうするのがいいのか。
 言葉にすると、ますます息が乱れた。今やしっとりと潤った中を、試すようにタムドクは探った。昂らせ、絶頂へと導く道を、夢中になって探していた。
 声が漏れる。腕を掴んだ手が爪をたてた。女は桜色に染まって震え始めていた。

 

 ふいに姿を現したタムドクに、コ将軍は安堵のため息を漏らした。
 「陛下、お探ししました。」
 「それはすまない。迷い込んだのをいいことに、ちょっと隠れて休んでいた。鹿はどうなった。」
 「白い鹿はおりませんが、白虎将軍が数頭、大物を仕留めております。」
将軍は騎上のタムドクをじっと見つめた。弓筒を背負い弓を片手に、もう片手で軽快に手綱をさばいている。
 腰から下はぐっしょりと濡れていた。乱れた髪を片手で撫でつけると、内紐がほどけて開いた衿を寄せ、目を伏せて笑った。その目元に薫るような色香を見た近衛隊長は、何も言わず馬を返した。

 
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